Legislative Assembly of British Columbia, Victoria; Photo by ©the Pacific Post
BC州議事堂、ビクトリア市。 Photo by ©the Pacific Post

カナダ各地で先住民族たちのデモが続いている。鉄道や港を封鎖し、人・物の流通を止めている。きっかけはカナダ最西端ブリティッシュ・コロンビア(BC)州だ。

BC州北部に位置する先住民族Wet’suwet’en(ウェツウェテン)自治領でパイプライン建設反対デモを実行していたWet’suwet’en族の28人を連邦警察が逮捕した。これが引き金となって全国にデモが広がった。各地で先住民族たちの静かな怒りが爆発した形だ。これに若者たちが共感しデモは広がりを見せている。

LNG事業コスタル・ガスリンクのパイプライン建設に猛反対

ブリティッシュ・コロンビア州北部では液化天然ガス(LNG)事業が進行している。合弁会社LNGカナダの事業で、コスタル・ガスリンク社がパイプライン建設を手掛けている。このパイプラインがウェツウェテン自治区を通る。

このパイプライン建設に猛反対しているのがウェツウェテンの首長たち。自分たちは事業に賛成していないにもかかわらず企業が工事のために自治区内に立ち入ろうとするため、現場へ続く道路を封鎖して立ち入りを阻止していた。

しかしコスタル・ガスリンク社が裁判所に訴えBC州最高裁判所が強制撤去を許可。そこで警察がバリケードを張っているウェツウェテンの人々を逮捕した。

自治区を守るウェツウェテンの人々を強制執行で逮捕するという行為が、カナダでこれまで続いてきた先住民族への差別的な行為の繰り返しと危機感を抱いた他の先住民族たちが、ウェツウェテンの人々を支援すると各地でデモが決行された。

トロント、モントリオール、オタワという主要都市への鉄道アクセスをシャットアウト

早くに反応したのはオンタリオ州Tyendinaga Mohawk(ティンディナガ・モホーク族)。ベルビル近くでカナディアン・ナショナル・レールウェイ(CN)が通行止めになるデモを7日から決行。線路を完全に封鎖はしていないが、デモのキャンプを張っている場所がモホーク族の自治区内でありながら線路に近すぎるため列車の運行ができないという。すでに強制撤去命令は裁判所から出ているが、オンタリオ州警察は強制撤去をまだ実行していない。

この場所は鉄道のポイントとなる場所で、CNの貨物列車がトロント・オタワ間、トロント・モントリオール間で5日間に渡って運行停止となっている。乗客が利用するVIAレールも停止し、州民らに大きな影響が出ている。オンタリオ州警察が交渉しているが、モホーク族代表はBC州ウェツウェテンから連邦警察が撤退しない限りデモを止めるつもりはないと語っている。

BC州各地で毎日大規模デモ

BC州では9日夜から10日早朝にかけてウェツウェテン先住民族を支持する人々がバンクーバー市とデルタ市にある港への道路を封鎖。貨物の運搬に支障が出るとして警察が介入し約60人の逮捕者が出た。

11日にはバンクーバー市キャンビー&ブロードウェイストリート交差点で2時ごろからデモが始まった。バンクーバー市内でも最も交通量が多い交差点がラッシュアワーを過ぎても完全封鎖された。バンクーバー市警はバス会社や市民に迂回するよう呼びかけた。

12日にはグランビルブリッジを封鎖した。ダウンタウンとバンクーバー市の南側をつなぐ市の大動脈が完全に停止。橋の上で怒りを爆発させたバスの乗客がデモ隊たちと言い合いになる一幕もあった。

州都ビクトリアでは、11日から再開するBC州議会がデモ隊に占領された。朝から先住民族の若者と支援者たちが州議事堂への出入り口を完全封鎖。議会が始まる前に入室できない議員も出た。しかし副総督による施政方針演説は予定より1時間遅れながらも実施された。BC州ジョン・ホーガン州首相の記者会見は中止となった。

BC州中西部のスミザース近くでは鉄道を塞いだため、プリンスルーパート港へ出入りする列車に影響が出た。

連邦、州政府は介入に消極的

鉄道が止まると経済が停滞するため、経済界からは連邦政府に介入するよう強く求めた。

連邦政府マーク・ガルノー運輸大臣は「列車が運行停止となれば経済への影響も懸念される」と語ったが、連邦政府が介入する段階ではないと各州政府に対応を任せると介入には消極的な姿勢を見せた。

BC州ジョン・ホーガン州首相も当初は、カナダは法治国家であり、法には従わなければならないと裁判所の強制撤去命令による警察の介入を支持していたが、事態が全国に及ぶに至り12日の記者会見では、ウェツウェテンの首長と話し合う用意があると語った。

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