The Vancouver Olympic cauldron; Photo by ©Pacific Walkers
バンクーバー冬季五輪の聖火台。Photo by ©Pacific Walkers

冬季五輪バンクーバー大会から今年で10周年を迎えたバンクーバー。カナダ最高のオリンピックだったと国内で評価されている五輪の思い出を振り返る中、2030年大会招致の話がにわかに聞こえ始めている。

10年前の2月12日、ここブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーで第21回冬季オリンピックが開幕した。スノーボーダーが画面を破って飛び出してくる印象的な開会式から10年。バンクーバー市民の多くがあのオリンピックを大成功と振り返った。

過去最高のメダル数を獲得、地元でのアイスホッケー金メダル、公共交通機関の充実。当時オリンピックとパラリンピックで聖火が灯った聖火台は今ではバンクーバーの観光名所の一つとなっている。

そんなこんなの好印象もあって、にわかに「バンクーバーに五輪をもう一度」という声が上がり始めている。

元VANOC代表がバンクーバー五輪再びの可能性を語る

2010年バンクーバーオリンピック・パラリンピック実行委員会(VANOC)CEOジョン・ファーロング氏が20日、バンクーバーで講演を行った。バンクーバー五輪から10周年を記念した講演会では、2030年冬季五輪招致の可能性を語った。

CTV(バンクーバー五輪公式放送局)バンクーバーのインタビューでは、バンクーバー五輪を成功させるにあたり実行員会には明確なビジョンがあったと語り、「カナダを変える、カナダ国民に人生で最高の瞬間を味わってもらう」という理念の下で成功させたと語った。

そして2030年への挑戦は決して不可能ではないと強調する。「カナダにはすでに五輪を開くだけの力が備わっている。世界の評判もいい」と言う。

カナダ国民もバンクーバー五輪はカナダで最も成功した五輪として支持している。

カナダで最も成功した五輪

カナダでは過去に1976年モントリオールで夏季大会、1988年カルガリーで冬季大会が開催された。どちらも金メダルなしという悲惨な結果に終わった。

2010年バンクーバー大会では「必ず金メダル」を合言葉として、政府も、オリンピック委員会も、選手も、一丸となって突き進んだ。

その結果、金メダル14個。これは過去の冬季五輪では最高を記録した。のちに記録は破られたがカナダにレガシーは残った。

ファーロング氏によると、大会実行費用は40億ドルでなんとか赤字は出さなくて済んだという。

CTVによるとインフラも含めた大会費用は約77億ドルと推測されるが、10年経っても正確な費用は分かっていない。

それでも多くのレガシーといわれるものがバンクーバーに残った。最も大きかったのはバンクーバーダウンタウンと空港をつなぐ列車スカイトレイン・カナダライン。これをきっかけにスカイトレイン網が整い始めた。

メディアセンターとして使用されたコンベンションセンターも、スケート会場となったリッチモンドオーバルも、現在でも重要な施設として使用されている。

聖火台は観光資源としてその存在感を示している。これまで多くのオリンピックが開催されたが五輪が終了して10年経っても聖火台が現役で残っている町はほとんどない。

ウィスラーに建設されたボブスレー施設も使用されている。唯一使用されていないのはジャンプ台のみ。こうしてみると街の発展にも貢献している。

そのせいか再び五輪招致に市民もまんざらでもないようだ。

2030年五輪招致に60パーセントが支持

世論調査会社リサーチによると、ブリティッシュ・コロンビア州民の60パーセントが、冬季五輪再招致を、積極的に支持、ある程度支持しているという。

ただ負の遺産がなかったわけではない。開幕直前までゴタゴタした選手村は結局バンクーバー市が費用を負担し、必要以上の税金が投入された。

不動産価格は急上昇し、現在バンクーバーは世界で2番目に住宅購入が難しい都市となっている。五輪だけが理由ではないが少なからず影響している。

ホームレス問題も解決していない。多額の税金を投入するのであれば、バンクーバーが抱える問題解決のために使用されるべきとの声は2010年の時から上がっていた。再招致となれば再び同じような声が上がるだろう。

2026年冬季五輪を目指していたカルガリー市は、そうした市民の声が住民投票に反映され、結局反対56パーセントで招致を断念した。

再招致について、バンクーバー市ケネディ・ストゥワート市長は「おもしろいアイデア」と一蹴することはなかったが、市が抱える住宅問題、薬物問題、ホームレス問題も重要と語ったとCTVが伝えた。

ただジャスティン・トルドー首相やブリティッシュ・コロンビア州ジョン・ホーガン州首相が賛成するのであれば反対しないと完全に否定はしなかった。

ホーガン州首相は20日の記者会見で質問されると、バンクーバー市とコミュニティから話が出れば成功可能な招致になるか検討はするが、招致を決めるのは市だとボールを投げた。州が予算を計上するかについては、10年先を見据えた試算を検討することが必要と完全否定はしなかった。

果たして、今後どのような展開となるのか。

現在2030年冬季五輪招致には、日本札幌が名乗りをあげているほか、アメリカ・ソルトレイクシティ、スペイン・バルセロナ、ノルウェー・リリハンメルが興味を示しているとみられている。