バンクーバー水族館、ベルーガの保有を断念

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Belugas at Vancouver Aquarium, British Columbia; Photo by ©Pacific Walkers
バンクーバー水族館にいた頃のベルーガ(シロイルカ)。ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市。Photo by ©Pacific Walkers

バンクーバー水族館は、イルカやクジラ類の保有を断念すると発表した。これまでは保有しているイルカやベルーガ(シロイルカ)のショーなどで人気を集めていたが、これからは見られないことになる。

館長ジョン・ナイチンゲール博士は、反対派やバンクーバー市を相手に討論を続けていたのでは「本来の仕事に支障をきたす」として保有を断念すると語った。

バンクーバー水族館はブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市の人気観光スポット、スタンレーパーク内にあり、市の公園庁が管轄している。

公園庁は昨年5月、バンクーバー水族館が現在保有している以外の新たなイルカやクジラ類の保有を認めないとする決定を多数決で可決した。理由はイルカやクジラ類を水族館の狭い水槽で保有することに倫理的な問題があるからと説明した。背景には保有反対派の猛反発があった。

水族館でのイルカ・クジラ保有については、常に議論されてきた。しかし2016年11月、飼育しているベルーガが相次いで死亡する事件が発生。現在でも原因は特定されていない。これが反対派を勢いづかせた。

公園庁の決定に当時はナイチンゲール館長も「徹底的に戦う」と語っていたが、昨年秋から水族館内で議論を重ねた結果、決定に従うことを決めたと説明した。

しかし、リハビリなどで保有する場合は例外を認められるようこちらは主張していくと語っている。

レスキュー・リハビリセンターとして

バンクーバー水族館は、海洋生物の展示というだけではなく、レスキューセンター、リハビリセンターとしての役割が大きい。

ここには世界から傷ついた海洋哺乳類が運ばれ、ここで治療を受け、リハビリをして、元気な姿になって海へ戻っていく。自然界では生活できないと判断された場合は、水族館で飼育される。そして将来のために生態系の研究に生かされる。

現在保有しているイルカ・クジラ類はイルカのヘレンのみ。同水族館では、2017年11月にオキゴンドウのチェスターが死亡、同年6月にはイルカのデイジー、2016年11月にはベルーガの親子オーロラとキラが相次いで死亡した。同年8月にはイルカのジャックが死亡している。

その他ベルーガ5頭を保有しているが、現在はアメリカの水族館に交尾のため貸し出している。3頭がシーワールド、1頭はシカゴのシェッド水族館、もう1頭はジョージア水族館で飼育されている。

ナイチンゲール館長は1頭になったヘレンの今後について、年を取っていること、保護された時の傷が深く自然界で生き延びられる体ではないことから、他の水族館に引き渡すか、公園庁の決定を無視してもう1頭連れてくるかの二者択一と語っている。

政治に翻弄される

水族館を管轄する公園庁は7人の委員で構成されている。これらの委員は、市長や市議の選挙時に、同様に選挙で市民によって選ばれる。

そのため、反対派は選挙前になると反対運動を繰り返してきた。

それでもこれまでは保有禁止の決定はなかったが、相次いだイルカ類の死亡で反対派の声を政治が無視できなくなった。

市は水槽の拡張工事に予算を充て、工事はすでに始まっている。イルカ類を保有しないことが決定したため、水槽の用途は未定となった。

今回の公園庁の決定が、今後の海洋哺乳類の研究にどのような影響を与えるのか専門家は懸念も示している。

バンクーバー水族館

バンクーバーで人気のアトラクションの一つ。海洋生物の展示という側面よりも、レスキューセンターやリハビリセンターの役割の方が大きい。

世界から傷ついた海洋哺乳類が運ばれ、専門家によるケアが施される。1996年には世界で最初に自然界からイルカ類を捕獲して保有することを禁止した。現在保有しているイルカは、リハビリ後も自然界に帰れないため飼育されているか、水族館で生まれたイルカのみ。

イルカショーなどでは、イルカの生態などについても説明され、海洋生物の教育機関としての役割も担っている。

その他には、BC州沿岸の海洋生物の生態の管理や研究の他、環境問題の提起や海岸線の清掃なども行っている。

また世界の水族館との連携や協力も行っている。日本の水族館ともつながりが深い。東日本大震災で崩壊した福島の水族館「アクアマリン福島」の復活のためにもスタッフを派遣している。